「アダルト・チルドレンという物語」
自分はアダルトチルドレンかもしれないと感じ始めたのは長女が生まれてすぐのことだ。
アダルトチルドレン(英:Adult Children)とは、
ーー出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
- 親がアルコール依存症の家庭で育って成人した人[1][2]。Adult Children of Alcoholics(ACOA、ACA)の略語。アメリカでアルコール依存症治療との関わりの中で生まれた言葉である[1]。
- 親や社会による虐待や家族の不仲、感情抑圧などの見られる機能不全家族で育ち、生きづらさを抱えた人。Adult Children of Dysfunctional family(ACOD)[3]。「機能不全家庭で育ったことにより、成人してもなおトラウマ(外傷体験)を持つ」という考え方、現象、または人のこと。
初孫の誕生は親にとってもめでたいことのはずなのに、実家に帰る時期で揉めた。
長女は真冬の生まれだが、私の実家は冬になると冷え込んで空っ風の吹き荒れる北関東にあり、生まれたばかりの長女を連れて実家に帰る気持ちにはなれず、「もう少し暖かくなって、娘も大きくなってから帰る」と伝えていた。田舎の戸建ては底冷えがして、安易に里帰りして、娘が風邪をこじらせでもしたらたまらないと思った。
しかし、これが親の機嫌を大いに損ねたらしい。
いや、実際のところ直接的な原因が何だったかはわからないのだ。しかし、「帰れる時期がいつになるかわからない」と伝えた頃から親の機嫌が露骨に悪くなり、いよいよ「もうお前とは関わらない。帰ってこなくていい」と曰ったのだ。
これがつい1、2ヶ月前まで初孫の誕生を心待ちにしていた人間の言葉だろうか。
その後、何度か親の携帯に連絡を入れたが、電話には出ず、しまいには呼び出し音がなる前に切れた。着拒されたのだ。
産後のホルモンの乱れのせいもあったのだろうが、私は子供を抱えながらわんわん泣いた。里帰り出産をして親の世話のもと、穏やかに産褥期を過ごせる産婦もいるというのに、私には気軽に頼れる人が一人もいない。自分の子供時代がどうだったか克明に教えてくれる人もいない。子育ての不安を打ち明ける相手がいない。それまでのように気軽に外に出て誰かに会いにいくことさえできない。孤独だ。孤独だ。
このままでは自分自身の不安が娘に伝わってしまう、それだけは何としても避けたいと、私は区の保健師に電話した。他に頼る人は見つからなかった。
お願いです、助けてください。こんな精神状態では子どもを育てられません。話を聞くだけでもいいから、助けて……。
担当の保健師と電話がつながる頃にはずいぶん落ち着いて話ができるようになっていたが、保健師は私の話を聞いて、相談できそうな心療内科をいくつか紹介してくれた。近所のクリニックもあった。
私はそれをお守りのように手帳に書き込み、辛くなったらいつでも駆け込めるようにしていた。実際に受診したのはもう少し先になってからだけれど。
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そんな出来事があって、それまでも薄々感じてきた、「うちの親は何か変だ」の原因を探り始めた。
親の性格や自分自身の症状について、いくつか当てはまるものは見つけたが、医療機関で診断を受けたわけではない。
一つ言えるのは、親自身にも何らかの精神的な問題があり、結果として私自身が長らく生きづらさを抱えながら過ごしてきたということだ。
そんな中、一番自分にとってしっくりきた言葉が「アダルトチルドレン」だった。
うちの親はアルコール依存症ではないので、冒頭の定義のうち、前者には当てはまらない。
ただし、物心ついた頃には両親が激しい口論をする姿を頻繁に目にし、父が母を怒鳴っている時は別室で震えながら息を潜めて過ごすことがよくあった。
また、同居していた父方の祖父は、大病を患ってから心身症気味になり、突然「俺はもう死ぬ、今すぐ入院して手術させてくれ」と叫び出したりということもよくあった。筆頭になって介護しなければならない母の心労はいかばかりだったか。
思春期の初めには生きづらさをはっきり自覚していた私だったが、長らくその理由はわからなかった。
大人になってーーそれも三十路を超えて、自分の心の問題を端的に表す言葉に巡り合えて、少し安堵している。
そして、ありがたいことにアダルトチルドレンの研究は着実に進んできている。
『アダルト・チルドレンという物語』は、アダルトチルドレン研究の黎明期に書かれた本であるが、これを契機として『アダルトチルドレン』という言葉は広く認知され、研究が進み、当事者たちによる告白本も増えている。
本書(正確には単行本版である『「アダルト・チルドレン」完全理解』)は信田さよ子氏の最初の著書だそうだが、取り上げられている事例や著者の問題意識は初版発行から20年以上経った今でも色あせることない生々しさがある。
文庫本は読み捨てすることも多いのだが、手元に置いておき折に触れて読み返したい一冊である。
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その他にも、6月にはこんな本を読みました。
(この他にも何冊か読んでいますが、全然面白くなかったり買ったことを後悔したりしたので省略)
忘れてなければ来月も読んだ本紹介します。